近年、「人手不足倒産」という言葉をニュースなどで目にする機会が増えました。
受注(仕事)はあるにも関わらず、それを実行する人がいないために、事業を継続できなくなるという事態です。
この問題に対し、多くの企業が採用(入口)の強化という対策に走りがちです。
しかし、私たちはそのアプローチだけでは不十分だと考えています。
今回は、人手不足倒産の背景にある本質的な課題と、企業が人材で困らないために構築すべき体制について、解説します。
人が足りないという課題に対し、採用広告費を増やすという対策は、例えるなら穴の空いたバケツに、より多くの水を注ぎ込もうとする行為に似ています。
どれだけ蛇口(採用)をひねっても、バケツの穴(離職)が塞がっていなければ、水は溜まらず、コスト(採用費と教育工数)だけが流出し続けます。
人手不足の本当の原因は、採用(蛇口)の問題である以前に、定着(バケツの穴)の問題であるケースが非常に多いと感じています。
企業が人材で困らない体制になるために、まず特定すべき穴(離職の原因)には、以下のようなものが挙げられます。
穴1:入社直後の「放置」
新入社員が歓迎されていないと感じる環境は、(【定着】「人が辞めない会社」が最初に取り組むこと )で解説した通り、早期離職の最大の原因です。
穴2:曖昧な「評価」
何をすれば評価されるのかという物差しが曖昧な感覚的な評価制度は、社員の不公平感を生み、こんなはずじゃなかったというミスマッチ(定着の失敗)につながります。
穴3:不明確な「ルール」
業務ルールやセキュリティ(AI活用など)のルールが不明確な職場は、社員に不要なストレスを与え、真面目な人ほど疲弊します。
穴4:育成の「丸投げ」
OJTという名目で、教育を特定の社員に丸投げする体制は、新入社員と教育担当者の両方を疲弊させ、共倒れになるリスクがあります。
人手不足倒産を避けるための本質的な処方箋は、採用活動(蛇口)を強化する前に、これらの穴(定着の課題)を塞ぐことです。
多くの場合、外部から新しい人材を採用するよりも、今いる社員が辞めない体制を整える方が、コストが低く、即効性があります。
推奨される手順(アプローチ)
現状把握(穴の特定):
なぜ人が辞めるあるいは定着しないのか。その原因を、適性検査や社員アンケート、あるいは人事評価の見直しを通じて、客観的に特定します。
体制の整備(穴を塞ぐ):
特定した課題(例:入社初日の放置)に対して、必要な対策を講じていきます。
採用活動(蛇口をひねる):
穴が塞がり、受け入れ体制が整ったことを確認してから初めて、採用活動(求人票の作成)を開始します。
人手不足は、採用(入口)だけの問題ではありません。
入口から出口(離職)まで、社員が安心して働き続けられる体制全体を見直すこと。
それこそが、人手不足倒産という最悪の事態を避けるための、唯一誠実な処方箋ではないでしょうか。