多くの企業が採用入口に多大なコストをかけている一方で、入社した人材がすぐに辞めてしまう、いわゆる採用のミスマッチに悩んでいます。
それを避けるためには、採用と同じ、あるいはそれ以上に定着のプロセスを重視する必要があります。
採用した人材が定着するかどうか。
その最初の、そして最大の分岐点は、入社初日にあります。
私たちは、この入社初日からの一定期間を「オンボーディング」(組織に順応してもらうための受け入れプロセス)と呼んでいます。
多くの企業がOJTと称して、新入社員を現場に配属し、スキル教育から始めようとします。
しかし、新入社員が入社初日に感じていることは、
「早くスキルを身につけたい」
ではなく、
「この会社は、自分を歓迎してくれているだろうか」
「ここでうまくやっていけるだろうか」
という強烈な不安です。
この初日の不安を安心に変えること。
これこそが、人が辞めない会社が最初に取り組むべき最優先事項です。
スキル教育(OJT)は、その後で十分です。
まず取り組むべきは、歓迎の意思を体制して示すことです。
放置されていると感じさせないための、最も基本的なアプローチです。
(必須)新入社員のデスクが用意され、清掃されている。
(必須)PC、メールアドレス、名刺、社内ツールのアカウントなど、業務に必要なものが初日から使える状態になっている。
(推奨)デスクに小さな「ウェルカムカード」や、当日のスケジュールを置いておく。
新入社員の最大の不安は人間関係です。
(必須)経営層や上司から、既存社員全員に対し、「今日から〇〇さんが新しい仲間として入社する」ことを事前に周知徹底します。
(推奨)既存社員は、新入社員を見かけたら業務の手を止めてでも、自分から「〇〇です。よろしく」と挨拶をする、というルールを設けます。
(推奨)新入社員を一人にさせないため、メンター(教育係とは別)やランチ担当を決めておきます。
新入社員は、会社の独自ルールが分からず、「こんなことも聞いていいのか」という小さなストレスを溜めがちです。
(必須)就業規則や雇用契約書など、法的な書類を整備し、説明します。
(推奨)会社の独自ルール(例:「電話の取り方」「昼休憩の場所」「日報の書き方」「服装の決まり」など)をまとめた、簡単な「入社時ハンドブック」を用意しておきます。
初日の最後に、必ず上司(または社長)が面談の時間を設けます。
(必須)「入社おめでとう。私たちは、あなたを歓迎します」と、改めて言葉で伝えます。
(必須)初日の不安や入社前のイメージとのギャップがなかったか、対話によって不安を解消します。
(推奨)「初日のゴールは、スキルを覚えることではなく、全員の顔と名前を覚えること(会社に慣れること)でした」と、安心感を与えます。
ここで生成AIは、「作業」のアシスタントとして活用できます。
(依頼プロンプト例)
「あなたはプロの人事担当者です。中小企業が新入社員の入社初日に準備すべき『備品リスト』と『独自ルールの例(昼食、服装、清掃など)』を網羅的にリストアップしてください」
AIにたたき台を作らせ、それを自社流にカスタマイズすることで、「入社時ハンドブック」の作成時間を短縮できます。
ただし、AIは物理的な準備はできても、心理的な歓迎(挨拶や対話)は人間にしかできません。
採用にかけたコストと労力を無駄にしないために、最も重要なのは入社初日の体制づくりです。
スキルの前に安心を、OJTの前に歓迎を。
この定着へのアプローチこそが、「人が育ち、人が残る」企業への第一歩だと考えます。