「社員同士で『ありがとうカード』を送り合う? そんな幼稚園みたいなこと、恥ずかしくてできるか」
「仕事なんだから、やって当たり前。いちいち褒め合う必要はない」
サンクスカード(称賛ツール)の導入を提案すると、特にベテラン経営者の方からこうした反応をいただくことがあります。
おっしゃることはよく分かります。
確かに、表面だけ見れば仲良しごっこに見えるかもしれません。
しかし、導入に成功している企業の経営者は、これを「福利厚生」ではなく「戦略的な経営システム」と捉えています。
組織には、売上や契約数といった「目に見える成果」の裏に、膨大な「目に見えない貢献」があります。
営業マンが外出中に、面倒な電話対応をしてくれた事務員。
共有フォルダを使いやすいように整理してくれた若手社員。
会議の空気が悪くなった時に、場を和ませてくれた課長。
これらは人事評価(査定)のシートには書ききれない些細なことですが、これらがなくなると組織は回りません。
サンクスカードの最大の目的は、これら縁の下の力持ちの行動を可視化し、組織の資産として記録することです。
「誰も見ていない」と思わせないことが、離職を防ぐ最初の防波堤になります。
心理学に「強化の原理」という言葉があります。
人は、ある行動をした直後に報酬(称賛や感謝)を得ると、その行動を繰り返そうとする心理が働きます。
前回(【定着】「結果さえ出せば何をしてもいいのか?」 成果主義の限界と、プロセスを評価する本当の意味)で「バリュー(行動指針)」の話をしましたが、バリューを定着させる一番の近道は、バリューに沿った行動をした瞬間に褒めることです。
「〇〇さん、さっきの会議での発言、まさに『挑戦する姿勢(当社のバリュー)』だったね!ありがとう」
このように、サンクスカードを通じて「会社が求めているのはこういう行動だ」というサンプルが社内に蓄積されていきます。
これは、上司が100回説教するよりも遥かに高い教育効果を持ちます。
失敗するケースの多くは、素晴らしい偉業だけを称賛しようとするからです。
そうではなく、些細な親切にこそスポットライトを当ててください。
誰かのデスクを拭いてくれた。
重い荷物を持ってくれた。
元気な挨拶をしてくれた。
そんなレベルで構いません。
「ありがとう」という言葉が飛び交う職場は、心理的安全性が高く、ミスやトラブルの報告も早くなります。
結果として、風通しの良い、強い組織が出来上がるのです。
大人が褒め合うことは、決して恥ずかしいことではありません。
それはプロフェッショナル同士のリスペクトの表明だと考えます。