「面接では良い人だと思ったのに、入社したら、どうも合わなかった」
これは、(【採用】「良い人」ではなく「合う人」を見極める。『ファン化面接』とは?)でも触れましたが、面接を感覚や印象だけで行ってしまうことで発生する、典型的な採用のミスマッチです。
この感覚に頼った採用のリスクを低減させる仕組みとして、適性検査の戦略的な活用が考えられます。
今回は、適性検査を導入すべきか、その費用対効果と、採用の仕組みへの組み込み方を解説します。
まず、なぜ適性検査という客観的な仕組みが必要なのか。
それは、面接官が、どれだけ経験を積んでいても主観や思い込みから逃れられないからです。
「(人手不足だから)早く採用したい」という焦り
「(自分と似ているから)きっとウチに合うはずだ」という期待
「(ハキハキしているから)きっと仕事もできるだろう」という印象
こうした主観が、応募者の本質を見えなくさせます。
面接という異常な空間で取り繕った応募者の姿を良い人と判断し採用してしまうことが、入社後の「こんなはずじゃなかった」というミスマッチの最大の原因です。
適性検査の導入には、当然コストがかかります。
しかし、これはコストではなく、ミスマッチを防ぐための投資と考えることができます。
適性検査のコスト:1人数千円程度
採用ミスマッチのコスト:数十万~数百万円
(内訳:採用広告費、面接官の工数、入社手続き費用(社労士費用含む)、教育研修費、そして早期離職による既存社員の士気低下…)
採用した人材が3ヶ月で辞めてしまうコストと、それを防ぐための投資を比較すれば、費用対効果は明らかです。
ここで、企業が陥りがちな新しい罠について、見解を述べます。
それは、「適性検査はコストがかかるから、生成AI(ChatGPTなど)に履歴書を読み込ませて分析させよう」という仕組みの勘違いです。
(危険なAI活用例):「この履歴書(PDF)を読み込んで、応募者のストレス耐性や協調性を分析して」
この活用法には2つの重大なリスクがある、と警鐘を鳴らします。
1. リスク:心理測定ではなくAIの感覚である点
生成AIは、(【生成AI】「給与計算」は、AIでどこまで自動化できるのか?)で計算ができないのと同様に、心理測定(適性検査)もできません。
AIが返すのは、心理統計学に基づいた客観的なデータではなく、インターネット上の情報を学習したそれらしいテキスト(=AIによる感覚に過ぎません。
これは、面接官の主観をAIの主観に置き換えただけの、新しい感覚による採用であり、新たなミスマッチを生む温床となります。
2. リスク:個人情報の重大な漏洩である点
履歴書は、氏名、住所、生年月日、学歴、職歴が詰まった個人情報の塊です。
これを、セキュリティポリシーが不明確な外部の生成AI(無料版など)にアップロードする行為は、機密情報の漏洩そのものです。
企業のコンプライアンス(労務管理)の仕組みの観点からも、この行為は絶対に推奨できません。
仕組みとして重要なのは、AIの感覚に頼るのではなく、統計的に検証された客観的な適性検査を、合否を決める(落とす)ための道具として使うのでもない、ということです。
適性検査は、面接を成功させるための対話の材料として活用することが鍵となります。
【仕組み 1】「客観的な事実」の把握
応募者に面接前に検証された適性検査を受けてもらい、その客観的なデータ(ストレス耐性、協調性、思考性など)を事前に把握します。
【仕組み 2】「仮説」を立てる
そのデータに基づき、「この人はプレッシャーに弱いかもしれない」「この人は慎重派かもしれない」といった仮説を立てます。
【仕組み 3】ファン化面接での「行動質問」
面接の本番で、その仮説をジャッジするのではなく、対話で深掘りします。
(NGな使い方): 「あなたはストレス耐性が低いですね(不合格)」
(推奨される「仕組み」): 「検査結果によると、ご自身ではプレッシャーを感じやすい側面があるようですが、前職で『最もプレッシャーを感じた場面』と、その時『どのように(具体的に)乗り越えたか』という行動の事実を教えていただけますか?」
テクノロジー(適性検査)が客観的な材料を提示し、 人間(面接官)が対話(ファン化面接)でその材料を深掘りする。
この仕組みこそが、面接官の感覚という曖昧なものを排除し、採用のミスマッチを科学的に防ぎ、「人を迎え、人が育ち、人が残る」未来につながる、誠実なアプローチだと考えます。