「また、最低賃金が上がるのか…」
「これ以上、どこを削ればいいんだ…」
毎年報じられる最低賃金の大幅な引き上げ。
政府の方針として、この流れは今後も継続することが示唆されています。
特に中小企業にとっては、その重いご負担、経営への直撃を思うと、私たちも身が引き締まる思いです。
そして、私たちがこの問題で最も懸念しているのは、単純なコスト増加のリスクだけではありません。
対応を一つ間違えると、採用のミスマッチ(ここでは、入社後のミスマッチ)と定着の仕組みそのものが、内部から崩壊してしまうリスクがあるからです。
最も危険な対応。
それは、法律で決まったから、最低賃金だけを、対象者だけ引き上げるという、その場しのぎの点の対応を毎年繰り返すことです。
例えば、貴社の時給がこうだったとします。
新人のAさん(入社1ヶ月): 時給 1,162円(旧・最低賃金)
ベテランのBさん(入社3年): 時給 1,245円
ここで、最低賃金が「1,225円」に上がったとします。 Aさんの時給を「1,225円」に引き上げ、Bさんの時給をそのまま(据え置き)にしたら、どうなるでしょうか。
Bさんの心の中は、不公平感でいっぱいになります。
「私がこの3年間で積み上げた経験やスキルは、新人との差額『20円』の価値しかないのか」
「こんな会社では、もう頑張れない(こんなはずじゃなかった)」
(【定着】社員の「エンゲージメント」とは? 難しい言葉を使わずに解説します)でお話しした「エンゲージメント(信頼と意欲)」は一瞬で崩壊します。
これは、企業が自ら、最も定着してほしかったはずのベテラン社員の離職を引き起こす、最悪のミスマッチです。
「ならば、毎年、全員の時給を最低賃金が上がった分だけ、一律で上げればよいのか」
…それは、最も避けたい「ジリ貧」の道です。
企業の生産性(一人あたりの付加価値)が上がっていないにも関わらず、コスト(人件費)だけが毎年上がり続ける。
これでは、企業の体力(内部留保)が尽きてしまいます。
私たちは、この最低賃金の継続的な引き上げを、コスト(負担)としてだけ捉えるべきではない、と考えています。
これは、企業が属人的な(曖昧な)給与から脱却し、生産性(付加価値)に基づく賃金体系(給与の仕組み)へと移行するための、きっかけなのかもしれません。
私たちが重要だと考えるのは、点の対応ではなく、仕組みの根本的な再構築です。
「等級制度」の導入(公平性の担保)
「新人」「ベテラン」といった曖昧な区分ではなく、「等級(グレード)」を設計します。
(例:G1=定型業務ができる、G2=後輩指導もできる、G3=業務改善ができる)
最低賃金はG1の下限として設定します。Bさん(G2)は、最低賃金が上がっても、自身の等級が守られるため、納得感が揺らぎません。
「評価制度」との連動(納得感の醸成)
どうすればG1からG2に上がれるのか。その物差し(評価基準)を明確にします。
これは、人が育つ(育成)ための仕組みそのものです。
「生産性向上」への投資と「助成金」の活用
新しい賃金体系(仕組み)の原資は、生産性向上によって生み出すしかありません。
業務改善助成金などを活用し、企業が生産性を上げるための投資(例:ITツール、自動化機器)を行います。
最低賃金への対応は、守り(コスト)の問題ではありません。
「今いる社員様の信頼を、どう守り抜くか」
そして、
「未来のコスト増に耐えられる生産性の高い仕組みを、どう作るか」
という、定着と育成のための、攻めの仕組みづくりの問題だと考えます。