求人票の中で、求職者がアットホームという言葉の次に注目し、そして警戒する言葉があります。
それは、給与欄の「給与:応相談」という表記です。
企業側としては、
「経験や能力に応じて、柔軟に対応したい」
「(優秀な人なら)相場より高く出す用意がある」
といった、ポジティブな意図で使われているケースもあるかもしれません。
しかし、私たちは、この「応相談」という表記も、採用のミスマッチと機会損失を招く、重大なNGワードの一つだと考えています。
応相談と書かれた求人票を見た求職者は、どう感じるでしょうか。
「応募したいが、自分の希望額を伝えたら高すぎると判断されて、面接にも進めないのではないか」
「相談とは名ばかりで、どうせ買い叩かれる(安く見積もられる)のではないか」
「((【採用】求人票で、まだ「アットホーム」って書いてませんか?)のアットホームと同じで)給与の基準が曖昧で、入社後も気分で給与を決められるのではないか」
この不安と不信感が、応募への最後のワンクリックを妨げます。
求職者は、リスクを冒して応相談の企業に応募するよりも、明確に「月給 〇〇万円~」と記載している、安心できる他の企業を選びます。
私たち社会保険労務士の視点から見ると、「給与:応相談」という表記は、
「ウチには、客観的な給与規程が、まだ整備されていません」
と、公言してしまっているのと同じ状態に見えます。
給与とは、企業が何を(どんな行動や成果を)評価するかという仕組みの結果であるはずです。
その仕組みがないまま、その時の交渉で給与が決まるのだとしたら、それは定着の土台である公平性や納得感を、根底から揺るがすことになります。
(【採用】求人票で、まだ「アットホーム」って書いてませんか?)でも触れましたが、求人票の文字数は限られた資源です。
その貴重なスペースに、求職者の不安を煽り、応募を遠ざける応相談というマイナスの情報を記載するのは、あまりにももったいない機会損失です。
私たちの使命は「人が育ち、人が残る」ことです。
そのためには、採用の入口である求人票で、求職者が最も気にする給与という不安を、徹底的に取り除く仕組みが必要です。
私たちは、「応相談」と書くことをお勧めしません。
代わりに、企業の給与体系に基づいた、誠実な事実を記載することを推奨します。
NG: 「給与:応相談」
OK(必須): 「月給 35万円 ~ 40万円」
下限と上限の具体的な金額(=レンジ)を明示します。
OK(推奨): 「※上記はあくまで最低保証額です。経験・能力・前職給与を最大限考慮し、決定します」
相談に応じるというポジティブな意図は、このように補足します。
OK(推奨): 「【モデル年収】 520万円(35歳・リーダー職・入社5年目)」
未来の見通しを示すことで、育成(人が育つ)環境があることをアピールできます。
給与は、企業と社員様が結ぶ最初の、そして最も重要な約束です。
その約束を応相談という曖昧な言葉で濁すことは、採用のミスマッチの始まりです。
採用の入口で誠実な仕組み(給与レンジ)を提示すること。
それこそが、入社後の「こんなはずじゃなかった」を防ぎ、定着につながる信頼関係の第一歩なのだと考えます。