(【定着】「人が辞めない会社」が最初に取り組むこと)で、新入社員の入社初日の不安を解消し、安心してもらうことの重要性に触れました。
その「安心」の土台ができた次に取り組むのが、「スキル」の習得、すなわち「OJT(On-the-Job Training)」です。
しかし、多くの企業で、このOJTが、OJTという名の“丸投げ”になってしまい、かえって新入社員の早期離職(採用のミスマッチ)を招いている例を見かけます。
今回は、「人が育ち、人が残る」ための、OJTの体制づくりについて解説します。
OJTが丸投げになると、必ず2人の犠牲者が生まれます。
1. 新入社員(受け手)の犠牲
現場に配属され、「先輩のAさんを見て覚えて」と言われるだけ。
Aさんは忙しそうで質問できず、自分は放置されていると感じ、早期離職につながります。
2. 教育担当者(Aさん)の犠牲
こちらが、より深刻な定着の問題です。
教育担当者に任命されたAさん(多くの場合、優秀なエース社員)は、
自分の通常業務は減らされない(二重の負担)
教え方を学んだことがない(属人的なスキル頼み)
教育を頑張っても、人事評価で評価されない
という三重苦に陥ります。
結果、新入社員は育たず、Aさん(エース社員)は「なぜ自分だけがこんな負担を」と疲弊し、新入社員とエース社員が共倒れで離職する、という最悪のミスマッチが発生します。
OJTは担当者個人のスキルではなく、会社の体制として設計することが不可欠です。
1. 「教育担当者」の業務と評価を見直す
これが最も重要です。
体制1:業務量の調整
教育担当者に任命された社員の通常業務(目標数値など)を、会社として公式に(例えば20%)削減する、といった配慮が求められます。
体制2:評価の連動
新人を育成することそのものを、教育担当者の正式な人事評価項目に組み入れ、報いる体制を作ります。
2. 「ゴール」と「マニュアル」を会社が準備する
教え方を担当者の感覚任せにしません。
体制3:ゴールの設定
入社3ヶ月後までに、〇〇が一人でできるようになるといった、具体的なゴールを、会社(上司)と担当者と新入社員の三者で共有します。
体制4:マニュアルの整備
業務の手順をまとめたマニュアルやチェックリストを、可能な限り会社側で準備します。
これにより、教育担当者の教える負担を軽減し、教育の質を標準化します。
3. 「メンター」と「トレーナー」を分離する
OJT担当者(トレーナー)は、しばしば評価者(上司)にもなるため、新入社員が本音の悩みを相談しにくい関係性でもあります。
体制5:メンター制度
業務(スキル)を教えるOJT担当者とは別に、年齢の近い先輩社員などをメンター(精神的な相談役)として任命します。
OJT担当者には聞きにくい、ちょっとした不安を解消する受け皿を用意することが、放置(孤独)を防ぎます。
4. 生成AIに「マニュアル作成」を手伝わせる
マニュアル作成の負担は、AIで軽減できます。
(AI活用例)
「あなたはプロのOJT担当者です。中小企業の営業部門で新入社員が最初に覚えるべき『電話応対マニュアル』のたたき台を、具体的なチェックリスト形式で作成してください」
AIにたたき台を作らせ、それを現場(OJT担当者)が修正することで、負担を最小限に抑えられます。
OJTは人に頼るものではなく、体制で行うものです。
新入社員だけでなく、教育担当者(エース社員)こそを会社が守る体制を作ること。
それこそが、将来のエース社員を育て、「人が育ち、人が残る」職場環境の基盤となると考えます。