今回から総まとめとして、小手先のテクニックではない、100年続く企業を作るための採用定着の哲学についてお話ししていきます。
今回のテーマは、採用と定着は車の両輪です。
多くの企業が「人が足りない」と嘆き、求人広告やエージェントに多額のコストをかけます。
しかし、不思議なことに、どれだけ採用しても人が足りない状況が変わりません。
なぜなら、定着という受け皿がないまま採用をしているからです。
本記事では、組織作りにおいて最も基本的かつ重要な採用と定着の相関関係について、コスト構造と組織心理の両面から解説します。
組織をバケツ、人材を水に例えてみましょう。
採用活動とは、バケツに水を注ぐ行為です。
定着活動とは、バケツの穴を塞ぐ行為です。
離職率が高い(穴が空いている)状態で、高額な採用費をかけて水を注ぎ続けても、水は底から流れ出ていくだけです。
焼畑農業的な採用です。
この損失は、単に採用コスト(広告費・紹介料)だけではありません。
一般的に、社員1人が早期離職した場合の損失額は、その社員の年収の50%〜200%に達すると言われています。
採用コスト: エージェントフィーや広告費。
教育コスト: 現場社員が指導に費やした時間の賃金換算。
機会損失: その社員が定着していれば生み出したはずの利益。
組織へのダメージ: 「また辞めた」という既存社員のモチベーション低下。
穴の空いたバケツに水を注ぐ行為は、これだけの見えない現金を毎月ドブに捨てているのと同じなのです。
ここでパラダイムシフト(発想の転換)が必要です。
採用してから定着させるのではありません。
定着する環境があるから、採用ができるのです。
社員が生き生きと働き、長く定着している会社には、以下のような採用への好循環(ストック型採用)が生まれます。
① リファラル(紹介)の自然発生
「うちの会社、結構いいよ」と社員が友人を誘うのは、定着して満足度が高い証拠です。
これが起きれば、採用単価はほぼゼロになります。
② 「エンプロイヤー・ブランド」の向上
今の時代、OpenWorkなどの口コミサイトで社内の実情は筒抜けです。
定着率の高い会社は、必然的に口コミ評価が高くなり、高い広告費を払わなくても優秀な人材が向こうから集まってきます。
③ 採用基準の高度化
人が辞めなければ、焦って誰でもいいから採る必要がなくなります。
じっくりと自社のカルチャーに合う人だけを選別できるため、さらに定着率が上がるという正のスパイラルに入ります。
つまり、定着率を高めることは、遠回りに見えて最もコストパフォーマンスの良い、最強の採用活動なのです。
採用担当と定着担当(人事・現場)が分断されているケースがよくあります。
採用担当: 「とにかく人数を集めればゴール(KPI=入社数)」
現場: 「変な人を採用するな、育てる暇がない(KPI=離職率)」
これでは車は前に進みません。
採用と定着は一本の線で繋がっています。
重要なのは、退職者が出た時に「あいつは根性がなかった」で終わらせず、「採用時のどこにミスマッチの原因があったか?」を分析し、採用基準フィードバックすることです。
「ストレス耐性が低い人が辞めやすい」なら、面接でストレス耐性を見極める質問を入れる。
「入社後のギャップで辞める」なら、求人票の良いことだけでなく厳しい現実も正直に書く。
この「採用→定着(または離職)→原因分析→採用基準の修正」というサイクルを回し続けることこそが、経営者や人事責任者の本来の役割です。
採用は攻め、定着は守りです。
戦(いくさ)において、城門(定着)が開いたままでは、どれだけ兵隊(採用)を投入しても勝てません。
まずはバケツの穴を塞ぎましょう。
水を注ぐのは、それからだと考えます。