「うちはここ数年、誰も辞めていません」
採用面接や会社説明会で、このように離職率の低さをアピールする企業様は多いです。
確かに、ブラック企業のような短期離職が続く状態は問題です。
しかし、経営学の視点で見ると、離職率0%が長期間続くこともまた、組織にとっては大きなリスクとなります。
今回は、組織を活性化させるために不可欠な健全な新陳代謝(メタボリズム)について解説します。
組織には、水と同じ性質があります。
新しい水が入り、古い水が出ていく循環があれば水質は保たれますが、流れが止まれば水は濁り、腐敗します。
これをここでは沈殿と呼びましょう。
離職率0%が続く組織では、以下のような沈殿の弊害が起こりやすくなります。
ポストの詰まり: 上のポジションが空かないため、若手が昇進できず、優秀な野心家ほど辞めていく。
変化への抵抗: 同じメンバーで長く過ごすことで阿吽の呼吸は生まれるが、新しいアイデアや異質な価値観が排除されやすくなる(同質化)。
人件費の高騰: 成果に関わらず勤続年数だけで給与が上がり、生産性が低いまま高コスト体質になる。
重要なのは、離職率の数字ではなく、その中身です。
離職には2種類あります。
悪い離職(出血): 会社の将来を担うエース社員や、若手有望株が辞めていくこと。これは早急に止める必要があります。
良い離職(代謝): 会社の価値観に合わない社員や、パフォーマンスが著しく低い社員が退職すること。あるいは、社員がポジティブな理由(独立やステップアップ)で卒業すること。
経営者が目指すべきは、離職率0%ではなく、コア人材の定着率100%と組織全体での適度な代謝(5〜10%程度)のバランスです。
自然な代謝が起きない場合、制度として代謝を促す必要があります。
評価制度の厳格化: なんとなく定年までいられる空気をなくし、成果に基づいた評価で健全な危機感を持たせる。
役職定年制・ローテーション: 特定のポストに人を固定せず、定期的に役割を変えることで、組織の風通しを良くする。
誰も辞めないは、裏を返せば、しがみつきたくなるほど居心地が良い(ヌルい)だけかもしれません。
恐れずに新しい風を入れ続けること。
それが、100年続く強い組織の条件だと考えます。