「指導しても改善しない。もう辞めてもらうしかない」
前回の【前編】で解説した指導と記録を尽くしても、残念ながら改善が見られない場合、経営者はいよいよ決断を迫られます。
しかし、ここで感情に任せて「クビだ!(解雇通知)」と言い渡すのは、法的に自殺行為です。
今回は、会社を守りながら問題を解決する、実務上の最適解「退職勧奨(たいしょくかんしょう)」の進め方について解説します。
日本の労働法において、解雇のハードルは世界トップクラスに高いと言われています。
たとえ能力不足や勤務態度不良があっても、以下の要件を満たさなければ不当解雇と判定されます。
高度な合理性: 誰が見ても「解雇されて当然」と言える理由があるか。
解雇回避努力: 配置転換や降格など、解雇以外の手段を尽くしたか。
手続きの相当性: 就業規則に基づき、適正なプロセスを踏んだか。
もし裁判で不当解雇となれば、解雇期間中の給与(バックペイ)の支払いや、慰謝料、そして何よりその社員を職場に戻すことを命じられます。
これは会社にとって最悪の結末です。
そこで、リスクを避けるために行うのが退職勧奨です。
これは、会社側から「辞めてもらえないか?」とお願いし、社員が「分かりました」と承諾することで労働契約を終了させる方法です。
解雇との決定的な違いは、社員の同意(合意)があるかどうかです。
合意さえあれば、解雇規制の適用を受けないため、法的リスクを大幅に下げることができます。
では、どのように切り出せば良いのでしょうか。
① 準備(記録の整理)
前編で作成した指導記録を用意します。
「これだけ指導したが、改善されなかった」という事実が、説得の材料になります。
② 面談(個室で冷静に)
「能力不足だから辞めてくれ」と一方的に責めてはいけません。
「今の仕事と君の適性が合っていないようだ。このまま評価が下がり続けるより、新しい環境で再出発した方が、君のキャリアにとってもプラスではないか?」
このように、相手の将来のためというスタンスで提案を行います。
③ 条件提示(パッケージ)
スムーズな合意を得るために、退職条件(パッケージ)を提示することも有効です。
解決金(退職金の上乗せ): 給与の1~3ヶ月分などを提示し、生活への不安を取り除く。
有給休暇の消化: 残った有給を全て買い取る、または消化させる。
会社都合退職: 失業保険がすぐに受給できるよう、「会社都合」扱いにすることを約束する。
辞めると言うまで部屋から出さない(退職強要)は違法です。
あくまでお願いであり、断る権利が相手にあることを忘れてはいけません。
話が平行線なら、一度持ち帰らせる余裕を持つことが重要です。
解雇は戦い(紛争)ですが、退職勧奨は交渉です。
感情的にならず、お互いのメリット(会社は解決、本人は再出発の資金と時間)を提示し、円満な合意書にサインをもらうこと。
これがプロの出口戦略です。