「うちの会社は、リゾートホテルの会員権を持っている。社員は安く使えるんだぞ」
「ゴルフ場の法人会員にもなっているから、休日は楽しめるはずだ」
求職者や社員に向けて、自社の福利厚生をこうアピールする経営者がいらっしゃいます。
素晴らしいお心遣いです。
しかし、残念ながらそのアピール、現代の若手・中堅社員にはほとんど刺さっていません。
むしろ、
「そんなお金があるなら給料にしてくれ」
「誰が社長と休日にゴルフに行きたいんだ」
と、冷ややかな目で見られていることすらあります。
福利厚生は、ただお金をかければ良いというものではありません。
社員が今、何に飢えているかを見誤ると、それはただのコストになります。
今回は、中小企業こそ取り組むべき、お金をかけずに定着率を上げる福利厚生のトレンドについて解説します。
昭和や平成初期の福利厚生は、ハコモノ(施設)が主流でした。
保養所、スポーツジムの法人契約、豪華な社員食堂。
これらは大企業の証であり、社員にとっても憧れでした。
しかし、令和の今、価値観は劇的に変化しています。
今の社員が最も価値を感じているもの。
それは「場所」ではなく「時間」です。
共働きが当たり前になり、育児や介護、副業や趣味など、個人の生活は多忙を極めています。
彼らにとって最大の報酬は、自由に使える時間です。
遠くの保養所に行く時間も気力もない彼らにとって、使えない施設は絵に描いた餅に過ぎません。
では、どのような福利厚生が喜ばれるのでしょうか?
キーワードは選択肢です。
人間は、「自分で選んだ」という感覚(自己決定感)を持った時に、満足度が高まる生き物です。
大企業では、ポイントの範囲内で好きなメニューを選べるカフェテリアプランが一般的ですが、中小企業でもこれを簡易的に導入することができます。
【中小企業におすすめの「選べる」福利厚生例】
アニバーサリー休暇(時間系):
「誕生日」「結婚記念日」「推しのライブの日」など、年に1〜2回、理由を問わず休める日を作る。
→ コストは実質ゼロですが、満足度は非常に高いです。
学習・図書手当(自己投資系):
「月3,000円まで書籍購入OK」「セミナー参加費補助」。
→ 会社の未来への投資にもなり、成長意欲の高い社員に特に響きます。
選べるギフト(現物系):
お中元やお歳暮の時期に、カタログギフトやAmazonギフトカードを支給する。
→ 社長が選んだ高級ハムより、社員が自分で選んだ洗剤セットの方が喜ばれるのが現実です。
もう一つ、忘れてはならない視点が「健康」です。
心身の不調による休職・離職は、中小企業にとって致命的なダメージとなります。
インフルエンザ予防接種の全額補助
人間ドックのオプション検査補助(バリウムを胃カメラに変更など)
24時間対応の健康相談チャットの導入
これらは、「会社があなたの体を守りますよ」という強力なメッセージになります。
特に30代・40代の働き盛りの社員にとって、健康への配慮は長く働ける安心感に直結します。
最後に。 福利厚生制度を導入する際、最も大切なのは「なぜ、これを導入するのか」というメッセージです。
「アニバーサリー休暇を導入するのは、君たちに家族やプライベートを大切にしてほしいからだ」
「書籍購入補助を出すのは、君たちの成長を会社が応援したいからだ」
ただ制度表に一行追加するだけでは伝わりません。
その背景にある会社としての愛を言葉にして伝えること。
それがあって初めて、福利厚生は「もらえる権利」から「会社への愛着」へと変わります。
社長の趣味で作った保養所の鍵が、引き出しの奥で眠っていませんか?
今一度、社員が本当に求めているものが何なのか、彼らの「時間」と「生活」に目を向けてみてください。