夏と冬、そして決算月。
経営者にとって、胃の痛くなる季節がやってきます。
そう、賞与(ボーナス)の支給時期です。
「今期は厳しかったが、世間並みには出さないと社員が辞めてしまう…」
「無理をして支給したのに、社員からは『これだけ?』という顔をされた」
そんな経験はありませんか?
本来、会社の利益を還元し、社員の労をねぎらうはずのボーナスが、なぜか不満の火種になったり、経営を圧迫する固定費になってしまっている。
これは、多くの中小企業が陥っている賞与の定義づけの失敗に原因があります。
今回は、賞与をただのコストにしないための、戦略的な賞与設計と運用について解説します。
まず、根本的な問いを投げかけます。
御社の賞与は、以下のどちらの性格を持っていますか?
A. 生活給的賞与(給与の後払い):
基本給を低めに設定し、その補填として「夏・冬 各1〜2ヶ月分」を固定的に支払うもの。
B. 利益配分的賞与(インセンティブ):
会社の利益が出た時だけ、その山分けとして支払うもの。
最大の問題は、社長の頭の中では「B(利益が出たから出す)」つもりなのに、社員は「A(出て当たり前)」だと思っている、という認識のギャップです。
求人票に「賞与:年2回(昨年実績3ヶ月分)」と書いてあれば、社員はそれを年収の一部(生活費の計算)に組み込みます。
その状態で、「今期は赤字だからゼロだ」と告げれば、社員にとっては「給料をカットされた」のと同じ衝撃を受けます。
これは期待権の侵害として、強烈な離職動機になります。
行動経済学のプロスペクト理論をご存知でしょうか。
人間は、「何かを得る喜び」よりも、「何かを失う痛み」の方を2倍以上強く感じるという性質(損失回避性)を持っています。
つまり、ボーナスが「例年より10万円増えた喜び」よりも、「例年より10万円減った怒り」の方が圧倒的に大きいのです。
中小企業のように業績変動が激しい環境で、無理をして定期賞与(〇ヶ月分)を約束してしまうことは、経営リスクであるだけでなく、社員のモチベーション管理上も非常に危険です。
一度上げた基準を下げることは、社員の心に修復不可能な傷をつけるからです。
では、どうすれば良いのか。
私たちは、定期賞与はミニマムに、決算賞与で還元するスタイルを推奨しています。
定期賞与(夏・冬): 「寸志〜1ヶ月分」程度に抑える、もしくは固定的な手当として割り切る。
決算賞与: 会社の営業利益の〇%を原資とし、社員に分配する。
この方式のメリットは、会社が儲かれば、自分たちも潤うという連動性が明確になることです。
「社長、エアコンの電気代無駄じゃないですか?」
「外注費削れませんか?」
社員からそんな声が出るようになるのは、利益が自分の賞与に直結していると理解した時だけです。
賞与を当たり前の権利から、全員で勝ち取る成果へと定義し直すのです。
最後に、賞与の渡し方(演出)についてです。
ただ銀行振込をして、WEB明細を見て終わり、にしていませんか?
それでは、賞与のありがたみは半減します。
賞与とは、いわば社員という労働の投資家への「配当金」です。
ぜひ、全社員を集めた場(あるいは個別の支給面談)で、以下のように伝えてください。
「今期、みんなの頑張りで営業利益が〇〇万円出た。 約束通り、そのうちの30%である〇〇万円を、決算賞与の原資とする。これは、社長からのプレゼントではない。君たちが稼ぎ出した利益の分配だ。来期も利益を出して、また山分けしよう」
こう語りかけることで、賞与は単なる臨時収入ではなく、経営参加の証になります。
いくら払うかも大事ですが、「なぜ払うのか」「どこから出ているお金なのか」を教育すること。
これがなければ、賞与は砂漠に水を撒くようなものです。
賞与の時期こそ、経営理念や利益の仕組みを伝える絶好の機会です。
「ボーナス払えてよかったな」と社長が一人で安堵するのではなく、社員と共に成果を分かち合い、次への活力を生む儀式にしてください。