試用期間が明け、業務に慣れてくると、上司と部下のコミュニケーションは徐々に業務連絡中心になっていきます。
「あれ、どうなった?」
「例の件、進んでますか?」
経営者やマネージャーの方に「社員と面談していますか?」と聞くと、「いやいや、うちは少人数だし、デスクも隣だから毎日喋ってますよ。わざわざ会議室を取る必要なんてないです」という答えが返ってくることがあります。
しかし、業務上の会話(報・連・相)と、定着のための対話(1on1)は、目的が全く異なります。
ここを混同している企業では、社員の隠れた不満や将来への不安に気づけず、ある日突然の退職届に驚くことになります。
私たちは、1on1を単なるお喋りの場ではなく、組織の健康診断の仕組みとして定義します。
通常のミーティング(進捗確認):
主語は「業務」。
目的は、問題解決、納期管理、数字の達成。
上司が話し、指示を出す比率が高い。
1on1ミーティング(定着支援):
主語は「社員」。
目的は、信頼関係構築、キャリア支援、体調やモチベーションの把握。
社員が話し、上司は聞く比率が高い。
毎日話しているといっても、その内容は仕事の話ばかりではないでしょうか?
社員が本当に聞いてほしいのは、業務の進捗ではなく、業務を通じて感じているモヤモヤや自分のキャリアの悩みです。
「何かあったら言ってこい」というオープンドア・ポリシーは、実は機能しません。
社員からすると「忙しそうな上司の時間を奪ってまで、『最近やる気が出ない』なんて相談できない」からです。
したがって、1on1は強制的な定期イベントとして仕組み化します。
頻度: 月1回〜隔週(30分程度)。
ルール: 「緊急の業務連絡禁止」。
「あ、そういえば例の案件だけど…」と上司が切り出した瞬間、それは1on1ではなくなります。
あくまで社員のための時間という聖域を守ります。
漠然と「最近どう?」と聞かれても、社員は「順調です(と答えるのが正解だろう)」と構えてしまいます。
本音を引き出すための質の高い質問を用意しておくことも、上司の重要な準備です。
「先月、一番テンションが上がった仕事は何だった?」
「逆に、一番しんどいと感じた瞬間は?」
「今、僕(上司)ができるサポートで、足りていないものはある?」
1on1は、上司にとっては時間を取られる面倒な業務かもしれません。
しかし、これをサボって社員のコンディション変化を見落とし、退職されてから採用・育成をやり直すコストに比べれば、月30分の投資など微々たるものです。
業務の話はデスクで。
人の話は1on1で。
この場所と時間を明確に分ける仕組みこそが、社員の心を繋ぎ止めると信じています。