「新人の離職を防ぐために、メンター制度を導入した」
「先輩社員をメンターに任命して、相談に乗らせている」
そうおっしゃる企業でも、詳しく実態を伺うと、
「実は、最初の1回ランチに行ったきりで、あとは立ち話程度…」
「メンターの先輩が忙しすぎて、新人が声をかけられずにいる」
という、制度の形骸化が起きているケースが非常に多いです。
なぜ、メンター制度はうまくいかないのでしょうか。
最大の理由は、育成を現場の社員の善意に依存しているからです。
私たちは、メンター制度を成功させるために、精神論ではなく、以下の2つの仕組みを構築することを強く推奨します。
よくある間違いが、一番仕事ができるエース社員をメンターにしてしまうことです。
エース社員は往々にして最も忙しい人であり、かつ感覚的に仕事ができてしまう(天才肌)ため、新人のできない悩みに共感できないことがあります。
私たちが推奨する人選の基準は、能力よりも資質です。
推奨するメンター像(資質):
業務スキルは平均的でも、傾聴(人の話を聞くこと)が得意な人。
直属の上司ではなく、斜めの関係(他部署の先輩など)の人。
採用ペルソナを体現しており、新人のロールモデルになれる人。
特に斜めの関係は重要です。
直属の上司には言えない弱音も、他部署の先輩なら相談できるからです。
この逃げ場を作ることが、メンター制度の目的の一つです。
これが、私たちが最も強調したいポイントです。
メンターである先輩社員も、自分の数字や業務を持っています。
その中で時間を割いて新人の面倒を見ることは、負担でしかありません。
この負担に対し、会社が感謝や評価という対価を用意しなければ、制度は必ず破綻します。
【仕組み 1】業務時間として認める
「昼休みや終業後にやって」ではなく、業務時間内にメンター活動(面談など)を行うことを公式に認めます。
【仕組み 2】人事評価制度に組み込む
メンターとしての活動を、人事評価の項目として明記します。
(例:「後輩育成・支援」の項目を設け、メンター活動の頻度や質を評価し、賞与や昇給に反映させます)
【仕組み 3】メンター手当の支給
月額数千円でも構いません。「会社は、あなたの育成業務を重要な仕事として認めている」というメッセージとして、メンター手当を支給します。
メンター制度は、新人のためだけの制度ではありません。
メンターを任された社員が、人を育てる難しさと喜びを知り、次世代のリーダー・管理職へと成長するための、育成の仕組みでもあります。
「先輩なんだから、面倒見てやってよ」
という甘えを捨て、育成も立派な仕事であると定義し、評価で報いること。
その誠実な仕組みこそが、新人と先輩社員の両方を定着させ、組織を強くすると考えます。