前回、新入社員の定着には「4つのタイミング(初日、1週間、1ヶ月、3ヶ月)」でのフォローが重要であるとお話ししました。
その中でも、特に警戒が必要なのが入社1ヶ月後です。
この時期は、入社直後の緊張(ハイの状態)が解け、冷静に会社を見渡せるようになると同時に、理想と現実のギャップに直面するリアリティ・ショックが最も起きやすい時期だからです。
私たちは、このタイミングで必ず「1ヶ月面談」を仕組みとして実施することを推奨しています。
しかし、多くの企業で、この面談の内容が間違っています。
せっかく面談をしたのに、かえって新入社員を追い詰め、ミスマッチを加速させてしまうケースが後を絶ちません。
多くの企業の方は、この面談を業務の進捗確認(評価)の場にしてしまいます。
NG質問(評価): 「仕事は覚えた? どこまでできるようになった?」
NG質問(プレッシャー): 「ミスが多いみたいだけど、原因は何だと思う?」
NG質問(誘導): 「やる気はある? 頑張れそう?」
これらは、OJT担当者が日々の業務で行うべき確認であり、定着のための面談ですべき質問ではありません。
まだ環境に慣れきっていない新入社員にこれをぶつけると、面談は詰められる場(尋問)となり、彼らは心のシャッターを下ろしてしまいます。
本当に聞くべきは、仕事の出来栄えではなく、彼らが感じている違和感です。
私たちが推奨する1ヶ月面談の目的は、評価ではありません。
「ガス抜き」と「ミスマッチの初期消火」です。
そのために、以下の3つの視点で、事実と感情を確認します。
質問例:
「入社前にイメージしていた仕事と、実際にやってみて違ったことはありますか?(良い意味でも悪い意味でも)」
意図:
誠実に情報を伝えたつもりでも、必ずズレは生じます。「聞いていたのと違う」という小さな不信感を、この時点で吐き出してもらい、誤解を解くか、業務内容を調整します。
質問例:
「業務について、質問しやすい人は誰ですか? 逆に、関わる機会がなくて困っている人はいますか?」
意図:
「仲良くやってる?」という曖昧な質問では、「はい」としか答えられません。
「具体的な名前」を確認することで、誰がキーマンか、どこで孤立しているかという事実を把握します。
質問例:
「PCの動作や、社内ツールの使い勝手、情報の探しやすさで、ストレスを感じていることはありませんか?」
意図:
本人の能力不足を責める前に、企業側が提供している環境に阻害要因がないかを確認します。これを改善するだけで、パフォーマンスが劇的に上がることもあります。
優秀な人ほど、入社直後は「期待に応えなければ」と無理をし、SOSを出せません。
この1ヶ月面談は、「ここでは、弱音を吐いても大丈夫だ」という心理的安全性を、企業が保証するための仕組みです。
「最近どう?」という立ち話で済ませず、30分間、会議室でしっかりと向き合う。
そして、出てきた課題に対して、企業側が誠実に動く。
その積み重ねだけが、リアリティ・ショックを乗り越え、「人を迎え、人が育ち、人が残る」未来へとつながると考えます。