社員が辞める時、退職届には決まって「一身上の都合」と書かれています。
多くの企業では、これをそのまま受け取り、去る者は追わずで手続きを進めてしまいます。
しかし、これは非常にもったいないことです。
なぜなら、退職する社員こそが、今の会社の問題点を最も正直に、客観的に語れる存在だからです。
在籍中の社員は、評価や人間関係を気にして、会社への不満や改善点をオブラートに包みます。
一方、退職が決まった社員には失うものがありません。
彼らが最後に残す言葉(退職理由)には、経営者が気づいていない組織の穴やマネジメントの歪みという、極めて重要な情報が含まれています。
この耳の痛い本音をいかにして吸い上げ、次の採用や定着に活かせるか。
それが人が辞めない組織へ生まれ変わるための分岐点となります。
多くのケースで、直属の上司が退職理由を聞いても、
「家庭の事情で…」
「新しいことに挑戦したくて…」
といった建前しか返ってきません。
理由は単純です。
直属の上司自身が、退職の原因であるケースが多いからです。
あるいは、最後に波風を立てたくないという配慮も働きます。
したがって、本音を引き出すには誰が、いつ、どう聞くかという仕組みを変える必要があります。
退職時の面談(エグジット・インタビュー)を機能させるためのポイントをご紹介します。
これが鉄則です。
人事担当者、あるいは経営者、もし可能であれば利害関係のない第三者が適任です。
「あなたの評価には一切影響しない。今後の会社のために、正直な意見を聞かせてほしい」
と伝え、心理的安全性を確保します。
退職交渉の最中に本音を聞くのは不可能です。
引き留められると警戒するからです。
退職手続きが完了し、あとは最終出社日を待つだけ、というタイミングで実施しましょう。
もう何を言っても大丈夫という状態を作ることが重要です。
どんなに厳しい意見(「給料が安い」「〇〇課長が最悪だ」「将来性がない」)が出ても、絶対に反論したり、不機嫌になったりしてはいけません。
反論した瞬間に、相手は口を閉ざします。
「教えてくれてありがとう。貴重な意見として真剣に受け止めるよ」
と、最後のギフトとして感謝を伝えるスタンスを貫いてください。
「人間関係が悪かった」
と言われたら、マネジメント教育を見直すチャンスです。
「給料が低かった」
と言われたら、評価制度や市場価値を見直すチャンスです。
退職は損失ですが、そこから学びを得られれば投資に変わります。
去りゆく人の背中から目を逸らさず、その言葉を拾い上げる勇気を持つこと。
それができる会社が、強くなれると信じています。