「退職のサインを見逃すな」
よくあるマネジメント論で語られるテーマです。
確かに、退職を決意する前の社員には、普段とは違う行動の変化が現れます。
しかし、ここで皆様に一つ、残酷な真実をお伝えしなければなりません。
たとえサインに気づいて声をかけたとしても、日頃の信頼関係がなければ、部下は絶対に本音を言わないということです。
上司:「最近、元気ないけど大丈夫か?」
部下:「あ、大丈夫です。ちょっと寝不足なだけなんで」
(心の声:あなたに本当のことを言っても解決しないし、評価が下がるだけだ…)
こうなってしまっては、いくら観察眼を磨いても意味がありません。
今回は、見逃してはいけない4つのシグナルをご紹介しますが、それを活かすためには心理的安全性(何を言っても大丈夫だという安心感)という土台が大前提であることを、まずは心に留めてください。
元気がないといった主観的な印象ではなく、客観的に観察できる具体的な行動の変化をご紹介します。
最も分かりやすいサインです。
これまでは真面目だったのに、体調不良での欠勤や理由の曖昧な半休が増えてきた場合は要注意です。
モチベーションの低下や、他社の面接に行っている可能性が考えられます。
以前は会議で積極的に意見を出したり、うなずいたりしていた社員が、
借りてきた猫のように静かになった
目を合わせようとしない
否定も肯定もせず、ただ聞いているだけになった
これらは、もうこの会社で何かを変えようという意欲がなくなった(諦め)のサインであることが多いです。
今まで責任感を持って残業も厭わずに働いていた社員が、急に定時で帰るようになるケースです。
もちろん業務改善の結果なら素晴らしいことですが、そうでない場合、「会社にいる時間を1分でも減らしたい」あるいは「転職活動の時間を作りたい」という意図の可能性があります。
意外かもしれませんが、不満を言っていた社員が、急に文句を言わなくなった時こそが最も危険です。
愚痴が出るうちは会社に良くなってほしいという期待があります。
それがなくなるのは、言っても無駄だと見切りをつけ、心が離れてしまった証拠だからです。
もしこれらのサインに気づいた時、慌てて会議室に呼び出し、「辞めたいのか?」「不満があるなら言え」と詰め寄るのは最悪手です。
信頼関係が希薄な状態で踏み込めば、部下は心を閉ざし、退職を早めるだけです。
必要なのは、サインが出る前からの関係構築です。
信頼残高を貯めておく。
スティーブン・R・コヴィー博士の言葉に信頼残高という概念があります。
日頃から、以下のような行動で信頼を貯金できているでしょうか?
業務以外の雑談を交わし、人となりを知ろうとしているか。
小さな約束を守っているか。
部下の話を遮らずに最後まで聴いているか。
このような残高があって初めて、部下は「この人なら、悩みを相談してもいいかもしれない」と思います。
退職のサインを知ることは、防災訓練のようなものです。
知識として必要ですが、火事を起こさないこと(日々の関係づくり)の方が重要です。
最近、様子がおかしいなと気づいた時にできることは、テクニックを使って聞き出すことではありません。
「君のことが心配だ。力になれることがあれば教えてほしい」 というスタンスを、誠実に伝え続けること。
そして何より、サインが出る前の平時にこそ、しっかりと目を合わせ、対話を積み重ねておくこと。
それこそが、最強の離職防止策だと考えます。