採用は入口に過ぎません。
本当の勝負は、入社された方が「この会社で頑張りたい」と安心して思える環境、すなわち定着と育成の体制づくりが不可欠です。
その体制の根幹となるのが、人事評価です。
中小企業において、人事評価は経営層や管理職の方の感覚に頼りがちです。
「Aさんは、なんとなく頑張っている気がする」
「Bさんは、最近おとなしいから、評価はBだな」
この感覚による評価は、評価者(上司)の無意識の思い込みに大きく左右されます。
結果として、社員様は正しく評価されていないという不満を抱き、これが採用のミスマッチ(正しくは入社後のミスマッチ)となり、離職という最悪の事態につながります。
では、公平を期すために、AIに評価させようと考えるのは、どうでしょうか。
例えば、AIにこう依頼したとします。
「社員Aの、この1年間の日報とチャットログを全部読ませて、S・A・B・C・Dで評価して」
これは、現時点では、絶対に避けるべき危険な活用法だと考えられます。
AIは文脈を読みません。
社員の家庭の事情や、体調、他のメンバーへの数字に表れないサポートといった、定性的な貢献を理解できません。
AIによる評価は、ただのデータ処理であり、そこに人の想いや背景は存在しないのです。
私たちがAIに依頼すべきなのは、評価そのものではなく、評価のための"客観的な材料集め"です。
AIは、人事評価において優秀な事務アシスタントとなります。
【ステップ1:人間(戦略)】
まず、評価の仕組み(=物差し)を人間が作ります。
(例:協調性のような曖昧なものではなく、顧客からの「ありがとう」の数、新人へのサポート時間といった、行動ベースの基準を決めます)
【ステップ2:AI(客観的アシスト)】
次に、その物差しに基づいて、AIに客観的なデータを収集・整理させます。
「あなたはプロの人事アシスタントです。社員Bについて、以下の『行動基準』に基づき、過去3ヶ月のチャットログ、プロジェクト管理ツール、週報から、具体的な『事実』のみを要約・リストアップしてください。
行動基準1: 顧客からの感謝の言葉(例:「ありがとう」「助かった」等のキーワード)
行動基準2: 新人Cさんとのコミュニケーション履歴(サポートの回数、時間)
注意点: あなたの主観(「頑張っている」など)は一切入れないでください」
【ステップ3:人間(対話と判断)】
AIが整理した事実という材料を、上司(評価者)が受け取ります。
上司の仕事は、その材料を持って、社員と対話(1on1)をすることです。
「AIが集めてくれたデータを見ると、顧客から〇回感謝されているね。素晴らしい」
「一方で、新人サポートの時間が減っているように見えるが、何か事情があった?」
AIは客観的なデータを集めます。
人間は主観的な想いを伝え、背景を傾聴し、最終的な判断を下します。
AIは、上司の評価業務の8割を占める、面倒な事務作業を効率化するツールです。
それによって捻出された時間で、上司(評価者)は、本来やるべき最も重要な仕事、すなわち社員と向き合い、対話し、未来(育成)を考えることに集中できます。
客観的なデータ(適性検査やAIの集計)と、人間による誠実な対話を組み合わせた評価体制を作ること。
それこそが、「人が育ち、人が残る」企業への第一歩だと考えます。