多くの企業が「生成AI」の業務活用に関心を持っています。
ChatGPTをはじめとするAIは、使い方次第で、人事労務の分野でも「採用の進め方」を効率化できるツールとなります。
しかし、よくある失敗が、AIにいきなり書いてもらうことです。
例えば、AIにこう依頼したとします。
「横浜市にあるIT企業の、営業職の魅力的な求人票を書いてください」
AIは、数秒でそれらしい文章を出力するでしょう。
「やりがいのある仕事です」
「アットホームな職場で…」
これこそが、採用のミスマッチの入口です。
具体性のない、どの会社にも当てはまる言葉では、本当に来てほしい人には響きません。
AIを優秀なアシスタントとして活用するためには、「執筆」の前に「分析」を依頼することが推奨されます。
AIは優秀な分析アシスタントでもあります。
例えば、横浜市で「IT 営業」を募集する際、推奨される手順(アプローチ)は以下の通りです。
【ステップ1:人間(戦略)】
まず、企業へのヒアリングを通じて、採用したい人物像を明確にします。
(例:「新規開拓で数字を追う人」ではなく、「既存顧客とじっくり関係を築き、サポートも厭わない人」)
【ステップ2:AI(分析依頼)】
次に、競合調査をAIに手伝ってもらいます。
Indeedや求人ボックスで、横浜市の同業他社(IT・営業職)の求人票を10件ほどピックアップし、そのテキストをAIに読み込んでもらい、こう依頼します。
「あなたはプロの採用アナリストです。以下の10件の求人原稿を分析し、共通して使われている『訴求キーワード』と『給与・休日の傾向』をリストアップしてください。また、これらの原稿で『言及されていない(弱い)訴求ポイント』があれば推測してください」
【ステップ3:AI(分析結果)】
AIは、以下のような分析結果を提示します。
共通キーワード:「やりがい」「成長できる」「未経験歓迎」
傾向:給与は月額〇〇円〜、休日は土日祝休みが中心
推測される弱点:「入社後の具体的なサポート体制」や「顧客との長期的な関わり方」についての言及が、ほとんどの原稿で不足している。
【ステップ4:人間 + AI(執筆依頼)】
ここで初めて執筆を依頼します。ステップ1の「採用したい人物像」と、ステップ3で見つけた「競合の弱点(=貴社の強みをぶつけるべきポイント)」をAIに伝えます。
「あなたはプロの採用コピーライターです。以下の『ペルソナ』に響くよう、『競合が弱いポイント』を突いた求人原稿をお願いします。
ペルソナ:既存顧客とじっくり関係を築きたい人
競合が弱い点:入社後のサポート体制、顧客との長期的な関わり
当社の強み(素材):『売って終わり』ではなく、導入後のサポートこそが評価の軸。月1回の職種を超えた社内勉強会あり。
トーン:誠実に、落ち着いたトーンで」
この指示(プロンプト)によって、AIが生成するたたき台は、単に「書いて」とお願いした時とは比較にならないほど具体的で、戦略的なものになります。
「『売って終わり』の営業に、違和感を覚えていませんか?」
「私たちが大切にするのは、導入後の『ありがとう』です。月1回の社内勉強会で…」
【ステップ5:人間(仕上げ)】
最後に、AIが作成してくれたたたき台を、私たち人間がブラッシュアップします。
想いを込めた言葉に磨き上げ、もちろん、社会保険労務士として法的に問題がないか(労働条件の明示、差別的な表現がないか等)も厳しくチェックします。
AIは、面倒な文章化の時間を短縮してくれるだけでなく、客観的な分析を手伝ってもらうことで、真価を発揮します。
AIを魔法の杖ではなく、「採用ミスマッチを防ぐための分析ツール」として採用の体制に組み込むこと。
それこそが、採用を入口で終わらせず、その先の定着や育成につなげるための、誠実なAI活用法だと考えます。